第28話

「悪い。痛かったか?」


「え?」



オロオロと私を見る当主様の吐き出した言葉が、あまりにも予想とは違っていて、思わず聞き返してしまう。



「大丈夫か?」



もう一度、吐かれたそれは、私をとても心配してくれている。伝わってくるのは、温かさだけで、その裏に潜む思惑も、冷たさも伝わっては来ない。



私の思っていた当主様像とは余りにもかけ離れていて、困惑しかない。



「大丈夫じゃないのか?」



何も答えようとしない私にではなく、当主様はそれを蒼に聞いた。


ゆっくりと立ち上がる蒼をぼーっと見ていると、ゆっくりと歩き出した蒼は、私の前で、お尻だけを下ろす。



ジーッと私を見つめ、鼻先を頬にすり寄せた。




蒼の滑らかな頬に手を滑らせ、目を閉じて。



「ありがと。」



心から、そう言った。蒼は、私を守ってくれる。なにもかもから。



きっとこの、夢からだって、私を守ってくれるはず。




だんだんと、沈んでいく意識。



その奥底で、



「こいつは俺のだぞ。」



憤然と、そう言った当主様の声が聞こえた気がした。

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