第12話

惚れた女が許嫁だったなんて、漫画みたいな展開だ。



「しかし彼女はもう、諦めているようですよ。いえ、それ以前にそう望んではいない。」


俺の側近である、長谷川地平(はせがわちへい)の嫌に冷静な声に舌打ちを零した。



京極の人間は、沖田や恩田の家をわざわざ調べることはない。


意味不明なことに、迎の儀で初めて、妻の顔を見る党首が多い。時には、妻となる家の次女たちがアピールするために屋敷に踏み込んできたこともあるらしいが、ほとんどの対たちはそうする。



しかし俺は、そのどれもの党首とは違っていた。



「いい。迎の儀には参加するはずだからな。俺がその場で指名すれば済むことだ。」



「……如何様にも。」



地平の口癖だった。俺という京極の党首は、言ったことが全て通る。


如何様にも。どうにでもしてくれ、という投げやりな言葉は、どうにでもなる、ということ。俺という個人は関係ない。だけど”京極の党首”は、神のようなものだ。



「あと、2日。」


そう呟いた俺は、自然と口角が上がっていた。



これからの日々の想像も付かないで、俺はただ、近くに迫るその日を待ちわびていたんだ。




雫。それでも俺は、お前に惚れたことは後悔しない。



愛しているから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る