第9話

頑張れば、努力すれば、私は将来、お母さまからも、お姉さまからも、一目置かれるかもしれない。


大きな海になった雫は、蒼く、綺麗な色で存在して。


お母さまに、笑って貰える。



ピンポーン……、



私がバカなことを考えていたことが分かったのか。この寂しい家の来訪者は、扉を開けた私に美しく微笑んだ。


「入ってもいい?」


「……はい。」



お母さまにけん制されなくても私は、この人を見る度に、心が痛む。



「よく、お母さまが許しましたね?」


「ふふ、妹に姉が会いに行って何が悪いの?って言ってやったのよ。」


「……そう、ですか。」



美しく、聡明で、全てが完璧。



「私、心配なのよ。」


「なにがですか?」



そんな彼女は、甘い香りを漂わせて、私の手をそっと握った。



「私がお嫁に行った後、貴女がちゃんとやっていけるかって。」


「っっ、」


その形の良い、艶々な唇は、本人の自覚もなく毒を吐く。



「もう、2日もないわ。私がお嫁に行ってしまったら、貴女を見ることができなくなってしまうから。」


「……そうですね。」



いつも、こんな人だった。自分がいなければ、私という人間はなにもできない。


そう思ってるような人だった。

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