第8話

こみ上げてくる、黒い感情。それを消し去ることはできなくても、こみ上げてくるのを押し返すことはできる。


「ワンッ!」


「っっ、」



それがそれでも、露呈しようとした時は必ず、この蒼が気付かせてくれるんだ。


「ご、めん。」



私の謝罪をどうでも良さそうに聞いた蒼は、そっぽを向いて寝入ってしまった。


苦笑いしてしまうけど、この感情が爆発するよりはマシだった。


長い、沖田の歴史で、私にはきっと、歴代の次女たちの血が流れている。



憎悪・怨嗟・嫉妬。それらの感情は、否定したくても、自分たちの内に秘めたもの。


それを刺激し、引きだそうとでも言うかのように、彼女たちの人生は人によって操作されてきたんだ。



「蒼、ご飯、どうしよっか。」


「……。」



私はマシなのかもしれない。彼女たちがこれまで、1人でいた時を、私は蒼と一緒に過ごせるんだから。



蒼の名前は、海の色から取った。



視界いっぱいに広がる海原は、真っ青で。深く潜るほど、光が届かないほど、それは蒼く、濃い色に変化する。


私の名前は、雫。雫が集まれば、いつか大きな海になるんじゃないか。


子供の頃はそんな夢を見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る