第58話

それなのに、きっちりしたスーツを着こなしていて、少しスリットの入ったそれがなんだかセクシー。



細見の眼鏡がまた、知的な感じで。言ってみれば美人さんだ。



その人は一瞬だけ私を見たけど、すぐに視線を逸らした。なんとなく違和感を覚えたけれど、気のせいかと思って特に気にしなかった。




「冬さん、出ていいのか?」


「あ、意外と平気です。」



秋穂さんの心配そうな表情に笑顔を返した。多分、部屋から出るなと言ったのも私を気にしてくれていたからなんだと思うから。



「……雪花、」


「え?」



突然、呟いた女性に反応した秋穂さんが振り返る。



ジッと、何かを見つめる女性の表情は少し緊張しているようだったのに、みるみる満面の笑みへと変わっていく。



「雪花っ、雪花!」



指を指したり、地団駄踏んだり、興奮気味で秋穂さんの腕をバシバシと叩く女性に、秋穂さんは苦笑いを零した。



「うちの新人。雪花の大ファンなんだ。」


「はぁ、」


「やばいっ、待って待って!」




私たちを気にもしていない女性は、肩にかけていた鞄から何かを取り出そうと必死に探っている。



子供のようなはしゃぎ方に、思わず笑みが零れた。

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