第55話

その声で雀が疲れたように溜息を吐き出す。それを遠目に見ていた私もつられるように溜息が零れた。



「まだ終わんないのかな。俺腹減ったんだけど。」


「……今日はデリバリーだよ。」


「えっ、雀作らないの?」




完全に雀のご飯目当てらしい光彦くんは不満顔。



「社長!手直しお願いします!」



突然、光彦くんの後ろから現れたスタッフの一人らしい女の人が急に大声を出すものだから、びっくりして身体が跳ねた。



その女性は眉間に皺を寄せて、なぜか私を睨みつける。


え、なんで私、睨まれてるの?


固まる私を他所に、光彦くんが盛大に溜息を吐き出した。



「昼当てにしてたのに。あ、じゃあさ、どっか食べに行かない?俺は奢らないけど。ね、冬ちゃん。」


「ん?」



女性からの突き刺さるような視線は、光彦くんが前に出たことで見えなくなる。



「う、うん、でも家の片づけとかあるし、外には出れないと思うよ?」


「えー、」



嫌そうに顔を歪める光彦くん。もしかしてここに来た真の理由はお昼ご飯じゃないかと思ってしまうほど。



「社長!」


「はいはい!うるさいなー。」



女性の急かす声に光彦くんが渋々キッチンを出て雀のところへ。女性はなぜかそれにはついていかず、私を睨み続けている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る