第53話

「俺の新作、ちゃんと着こなせてるじゃん。何が不満よ?」


「……。」



雀が私を抱きしめたまま光彦くんを睨みつける。どうやらそのせいで今日、関係ないと思っていた光彦くんがここにいるらしい。



「光彦くんも取材受けるの?」



今日の光彦くんは普段通りのラフな格好だ。梅雨の時期で少し蒸し暑いせいか、白シャツに黒のジャケット、そしてハーフパンツとかなり軽装だ。



でもいつもは眼鏡で寝ぐせが常時あるのにちゃんとコンタクトな上髪を整えている。少しだけ、よそ行き風。



「俺は受けないよ。無理。」



笑う光彦くんはかっこよく髪をかき上げてみせた。



「俺クラスになるとアポ取るのが大変だし?」


「今暇じゃねえか。」



雀のツッコミに噴き出した。確かに、今暇っぽい。



「ふふっ、」


「もう冬ちゃん!俺ちゃんと今日は仕事だからっ。」


「ふふふっ、でもよくウチに来るよね。」


「っっ、それはっ、」



光彦くんは仕事で忙しい期間以外はよくウチに来る。暇というわけじゃないんだろうけど、疑ってしまうくらいにはよくウチにいた。



少し話していたら、痺れを切らしたメイクさんに雀が連行されていく。不機嫌全開のその表情にまた笑ってしまった。

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