第52話

「雀、ドアッ、」



言いかけた私を、雀の大きな腕が引き寄せた。



「雀っ、」



もがいても腕の拘束はほどけない。そんな中でも、ドアにはさっきここにいたスタッフさんたちが集まってきていた。



「ほんとにっ、」



私たちに集まる視線が痛い。恥ずかしい以前に怖くて逃げ出したくなった。



すると、雀が一層私を強く抱きしめる。



「胸を張れ。」


「え、」



耳元で聞こえた声はとても力強い。至近距離で私を見つめる雀の目はまっすぐに私だけを見つめる。



「冬陽は俺の、大事な女だ。」


「っっ、」



雀はいつもまっすぐだ。愛情表現も、言葉も、視線も。



「堂々としてろ。」


「……ん。」




そして自分への気持ちも、とてもまっすぐだ。



「雀。」


「あ?」


「……やっぱり、めんどくさいんだね。」


「まぁな。」




今日の雀の普段着は、少しかっちり目。いつもオシャレなんだけど今着ているのはまるで高級レストランに会食にでも行きそうだ。



それに、髪がきっちりかき上げてある。ここまでバキバキに固めているのは初めて見たし。



そして決定的なのは。



「メイク途中じゃないの?」


「する必要性が分からん。」



化粧筆を持ったメイクさんらしいスタッフさんが人だかりの中に見えるからだった。

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