第50話
「それは違うんじゃないかな。」
「え?」
見上げれば、光彦くんの優しい笑顔が視界一杯に広がった。それだけ私たちの距離は近いということだ。
目を見開く私に、光彦くんが笑みを深める。
「あっちが入ってきたわけ。この家は雀と冬ちゃんの家なんだから、堂々としてていいんだよ。」
「そ、ういうわけには、」
俯いた。秋穂さんにも部屋から出るなって言われちゃったし。どうせなら外にいればよかったなんて、今更後悔してたくらいだ。
すると、頭の上に重みを感じた。それは光彦くんの大きな手で、何度も何度も、私の頭を撫でてくる。
「あ、の?」
「シッ、」
人差し指を立てた光彦くんは、ゆっくりと立ち上がって、部屋のドアへと歩いていく。
抜き足、差し足、音を殺して歩くその姿はよくテレビの再現ドラマで見る大げさな泥棒みたいだ。
「ふふっ、」
思わず笑った私に、光彦くんが再び人差し指を立てた。咎めるような目に思わず苦笑いを零す。
「冬ちゃん、俺、前から冬ちゃんのことが……あっ、いけないわ光彦くんっ、」
「……。」
突然始まった小芝居。多分私、のパートは裏声を使ってはいるけど、全然似てない。
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