第36話

「雀。」


「あ?」



胸元の冬陽が、俺の胸に頬を摺り寄せる。



「雀、雀。」


「な、なんだ冬陽。」



縋るような声。俺を求める甘い声に動悸が激しい。泣き止んだらしい冬陽は、まだ息は乱れているが、ようやく落ち着いてきたらしい。



「大好き。雀。」



突然の告白に、思わず光彦を見た。そんな俺を見てにやりと笑い、親指を立てる中年野郎。マジで絞め殺す。



「光彦くんも、秋穂さんも、大好き。」


「あ”?」



次いだ言葉に、急に不快感が増したが。対して光彦は一瞬驚きはしたが、デレデレと頬を緩ませた。



「ロリコンかよおっさん。」


「人聞き悪いなぁ、それは雀くんでしょ。手ぇ出しまくってるんだから。」


「っっ、」



手を出しまくってるのは事実だ。ぐっと言葉を飲み込む俺に、光彦は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。




「俺は、いいんだよ。」



光彦とは違って俺は恋人なわけで、手を出していい権利はあるはず。ある、よな?



「いいよな?」



不安になって冬陽に聞けば、キョトン顔でこちらを見ていた冬陽が柔らかく微笑んだ。



「うん。いいよ。」



その可愛い笑顔に、光彦を殺す前に俺が死にそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る