第21話

だから素直にそう言えば、光彦くんは顔を顰めて見せる。だけどなんでだろう。まるで拗ねているような、そんな可愛さを感じる。



一応中年なのにな。こういう仕草も似合うのが狡い。



「そう言わずに。雀の許可も取ってるから。」


「ごく自然に嘘を言わない。」


「あれ、即バレした。」



残念そうに悔やむ光彦くん。多分、何か私に話があって来たんだろうとは思う。だって私の電話番号も知ってるし、アプリでメッセージのやりとりもできる。それでも雀に内緒にしてまで突然会いに来たということは、そういうことだろう。



だけど今の私には、光彦くんと正面を見て向き合う勇気がないんだ。



「……ごめん。」



必死に笑顔を作った。そうしている今も、怖くて叫び出したいほどだ。



光彦くんが困ったように笑う。私の様子に気付いているのかもしれない。




「あの、もしかして、甲斐谷さん、ですか?」



そんな時、私たちを囲って傍観していた子たちの1人から、そんな声が上がった。


光彦くんが、声に答えるように笑う。



「そうだよ。君よく知ってるね?」



光彦くんの言葉に場が沸いた。そっか、光彦くんは有名なデザイナー。雑誌の表紙も飾るくらいの、有名人だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る