第22話

side 光彦




「テディのっ、」


「マジで?」


「やべー!」




外野が騒がしい。今はそんな場合じゃないんだけど。



「あのっ、握手してくださいっ。」



興奮が極まっているのか、冬ちゃんを押しのけて前に出た女子生徒が目をキラキラさせて迫ってきた。


普段ならいつものことだと笑顔で対応するとこだけど、雀の大事なお姫様に乱暴なことをされるのは困るな。



「ごめんね。今はプライベートだから。」



ファンの握手に答えるはずの俺の手は、冬ちゃんの肩へと回る。それだけで回りがざわつくんだから有名人とは面倒なものだ。



できればすぐにここを立ち去りたかったんだけど。



「……、」



見渡せば、ところどころでスマホが上がっている。



「撮るのは、やめてね。」



釘を刺したところで、あっさり引き下がってくれる子は8割ほど。一部の人間はそれでも撮り続ける。



俺の言葉に、冬ちゃんの肩がふるりと震えた。この子のトラウマは一生治ることはないのかもしれない。


それなのに、そんなトラウマを持った子と有名人である雀が出会った。皮肉な話だ。



「とりあえず、乗って。」



そう言っても冬ちゃんは首を横に振るばかり。よほど俺と2人になりたくないようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る