第7話

頬には涙で濡れた痕がある。そんな冬陽を心配そうに見つめる篠塚と、擁護教諭が傍にいた。



膝をすりむいている冬陽は、養護教諭が手当てしようとしても、暴れて一切触れさせてくれなかったという。そして土で汚れている手には、スマホが握られていた。



担任である篠塚を呼んでみたものの、状況は変わらず。冬陽は頑なに彼らと話そうとはしなかった。



迎えに来た俺の呼びかけにも、初めは一切応じず。茫然とどこかを見ている目は、泣いたせいか腫れている。




『冬。』



何度目かの呼びかけ。冬陽の耳をつまんでなるべく優しくそう言えば、うろんな瞳が漸く反応を見せた。



『帰ろう。』



俺の呼びかけに素直に頷いた冬陽は、ゆっくりと立ち上がる。意外にも、しっかりと歩みを進めた冬陽は、篠塚も、養護教諭さえも視界にいれずに、廊下へと出て行った。



『あの、』



後を追おうとした俺を、篠塚が呼び止める。



『すみません。力になれませんでした。』



謝罪の言葉に、漸く冬陽の涙の理由を知った。




---、



「学校がどうとかじゃなくてな、」



大人としての、けじめもあった。しかし。



「俺の、勝手な言い訳だ。」



本当の俺は、今すぐ冬陽を抱くのが怖いのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る