第6話

今思えば、クソみたいな思い出だ。俺の意思がもっと強ければ、冬陽以外の女なんて知らないで済んだだろう。



それでも抗えなかったのは。まだ存在が決定的じゃない、雪女を想っていたからだ。




「今、何月だ?」


「……5月。」



冬陽が学校に行き出して、2か月近く経っていた。5月も後半に入り、もうすぐ雨が降り続ける6月に入る。



初めは、冬陽が学校に行くのを1年も待つのかと最悪の気分だったが、俺たち2人の人生単位で考えればたった1年の出来事に過ぎないのだと思えるようになった。



「したくないわけじゃない。だけど、」


「分かってる。学校でしょ。」



そう呟いた冬陽が失笑を漏らした。少しずつ、冬陽が変わり始めていた。穏やかだった笑みは日に日に少なくなり、俺以外を見るその目は冷たい。



学校の話が出れば心を閉ざし、無機質に見つめ返すその目の奥には憎悪が渦巻いていた。




少しずつ、前を見ようとしていた。そんな冬陽を蹴落としたのは、紛れもない、信じるべき人間。



あの日、電話のあと学校へ迎えに行くと、膝や制服が土で汚れた状態の冬陽が保健室のベッドに座っていた。

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