第36話

「あの、なんでもやるので、」


『嫌。』


「まだ何もお願いしてないんだけど!」




雛が断るのは分かってる。けど、私はなぜか、あの人は助けたい。そう強く思ってる。



……イケメンだったし。



「せめて目が覚めるまで、置いてあげてくれない?」


『嫌なんだけど。』


「お願い!」


『嫌。』


「この通り!」


『いや。』


「なんでもするし!」


『だから、嫌。』



だけど雛は、ものすごく手ごわい。意思は固く、ものすごくめんどくさがりだ。



「……。」


万事休すか。このまま彼は病院の前に捨てられて、警察に事情を聞かされちゃうんだ。



ピアス陸人が狼って言ってた。狼って確か、暴走族とかの組織に囚われていない、不良ということだ。



それなら警察はまずいかも。今や警察が一番警戒しているのが、暴走族ややくざではなく狼と呼ばれる連中だと言われてるくらいだ。




彼は、そんなに悪人なんだろうか。私が初めて一目ぼれを経験した人は、そんな悪い人間だったのかな。




ちょっとショックかも。私って人を見る目がないのかもしれない。



『……琴葉。』


「ん?」



雛の声に返事はするけど、なんだか胸が苦しくて拳を握った。

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