第31話

「雛、疲れてる?」


「……メイク落とし付くからやめて。」



少しだけ肌寒い脱衣所。冷えた身体を包む温もりは、私を酷く苛立たせる。



「陸人。やめて。」


「だって雛、なんか疲れてるし。もっと疲れることすればぐっすり眠れるかなって」



首元にキスを落としたこの男は、色々なネジが取れまくっていて、もはや本体が壊れてしまっている。



いや、こいつの場合ネジどころか部品もないかも。



「これ以上踏み込んできたらここ出禁にするから。」


「うーん、それは困る。」



全然困っているようには見えないけど、陸人が今とても傷ついているのは分かる。



他でもない陸人を出禁にするなんて、ちょっと、言い過ぎた、かも。



「お風呂入る?」


「え?いいの?入る~。」


「じゃ、ボタン押してきて。」


「あいあいさー。」



ぴょんぴょん跳ねながら浴室へ消えていく陸人を見送って、メイク落としを馴染ませていく。



陸人はああいう、変人だけど、本当はすごく寂しがり屋。



学も抱えているものは大きいのに笑ってるし、大雅は、ただの能天気だけど。



みんな、抱えてるものは違う。あのイケメンだって、琴葉だって。そして、私も。

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