第15話

だけどそれ以上に、目を見張るほど男がとても、美しいと思った。




トロンとした男の目は、ゆっくりと私の方を見て、それはかすかに見開かれる。それだけで、心臓が大きく跳ねる。目が合っただけなのに、男と見つめ合っていると周りの音が一切聞こえない。



これが、恋。



なぜか確信が持てた。心拍数は最大値。頬も熱く、そわそわする。雛がよく言ってた恋の症状全てに当てはまる。


明らか不良だけど。しかもろくな状況じゃないけど。死体に囲まれてるけど。



だけどそれも気にならないくらい、私は男をただただ見つめていた。



不意に、男の薄い唇が動く。



「……、っ、」



男が何かを呟いた後、大きな身体はゆっくりとくずおれていく。



咄嗟に走ってみても、身体を受け止めきれるわけがない。そりゃそうでしょ。私から男まで距離にして5メートル以上は間が空いていた。それを数秒で詰めれるなら陸上選手になってるし。




私運動音痴だから無理だし。



頑張って走った私の努力も虚しく、男は地面に伏してしまった。ゴンと盛大な音をたてて頭を強打したっぽいけど大丈夫だろうか?



「大丈夫?」



恐る恐る、男の顔を手で撫でてみる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る