第56話

しかし、和子は。



「もう自分で食べてもいいぞ。」


「っっ、はいっ。」



とても、美味そうに食べる。



目をキラキラさせて、何から食べようかと、眉間に皺を寄せて考えて。



好物は、姿に似合わず肉が好きなようだ。さっき俺の食事を見た後だというのに、そういう所は気にしている様子はない。



「美味そうに食うな。」



そう呟けば、和子がムッとした表情をする。



「食いしん坊だと言いたいんですか?」



どうやら、食いしん坊だと言われたくないらしい。



「そうだな。よく食うな。」



だからわざとそう言えば、和子の箸の動きが鈍る。それは俺としては不本意な結果だ。



「しかし、それがお前らしくていいんじゃないのか?」



だからそう言ったんだが。



「食いしん坊が私らしいというのは、あまり嬉しくはありません。」


「ん?」



どうやら再び地雷を踏んでしまったらしい。それでも、和子の箸は少しずつ動いてちゃっかり皿におかずを移動させ続けている。



「クッ、」


「え?」



素直じゃない奴だ。食いしん坊と言われようが、食欲のまま食らえばいいものを。和子の基準で言えば我々鬼は、食いしん坊だらけだ。



食欲のまま人間を食い荒らし、時に足りずにこういう食事までしている者もいる。人間の数は限りがある。我々鬼も本能のまま食らい続けるわけにはいかないからだ。

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