第54話
「よいきっかけになった。お前は許してやろう。」
息を呑む桜土。普段なら家畜のえさにでもしてやるところだが、今回は結果的にうまくいった。そこは評価してやろう。
「それと、俺の贄は処分しろ。」
「すべて、ですか?」
しかし視線すら合わせられないとは。和子の度胸をこいつにも分けてやりたいところだ。
チラリと、和子を見た桜土。少々の期待が滲むその目は、どうやら俺を怒らせたいらしい。
「本物の贄以外、全てだ。」
「……かしこまりました。」
人間を憎み、蔑み、嫌うのは自由だ。しかしそれを俺の贄にぶつけることは許した覚えはない。
「桜土。」
「は。」
消えゆく命よ。どうか我が贄の機嫌を損ねるな。
「次はないぞ。」
「っっ、は。」
もしお前に、和子が甘美なる感情を爆発させたのなら、その時は長年仕えたお前ですらこの手で捻り潰してやろう。
今は俺に、和子の存在に気付かせてくれた礼として、お前に少しばかりの生を与える。
「何を食べるんですか?」
桜土が消え、胸元から和子が恐る恐る聞いてくる。その目は明らかに俺を疑っていて、思わず笑みが零れた。
「人間だ。」
「えっ。」
冗談など、何十年ぶりだろうか。いや、数百年は言った覚えがない。
「嘘だ。お前と同じ物を食う。」
「そ、うなんですか。」
怪訝な表情の和子。まだ納得がいっていないらしい。ひねくれた奴だ。再び笑みが漏れた。
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