第53話

しかし和子には、それがない。父親へ向ける愛情以外、同族へ向けるそれは憎悪や嫌悪ばかりだ。



確かに同じ人間が俺たち鬼に食らわれているというのに、和子の顔には同情すら浮かばず、挙句先ほどの女が食われていることに嫉妬すら覚えている。



理解できない感情だ。それでもなぜか、和子らしいと思ってしまう。




「なら、食ってもいいのか?」


「っっ、」



縋るような視線は、俺に語り掛ける。同族を、ではなく、他の女を食らうなと。



「ふ、面白い贄だ。」


「……和子です。」




和子の中にほんの少しだけ見えた愛情は、まだ大きなものではないだろう。それでもなぜか、そのほんの少しの愛情が、大きく俺の胸を揺さぶる。



溜まらず和子を抱く腕に力を籠めれば、これまで俺を抱きしめ返していた和子の手は動くことはない。



これは少々、機嫌を取るのに時間がかかりそうだと溜息が出た。



それでもなぜか、和子の首輪の宝石に反射する俺の顔は笑っている。




「和子、食事をしよう。」


「え。」




驚いている和子を他所に親指と人差し指をこすり合わせれば、桜土が姿を現す。



「お呼びでしょうか。」


「和子と俺の食事を。」


「っっ、かしこまりました。」



すぐに立ち去ろうとする桜土。呼び止めれば再び俺の前に傅く。

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