恋心
第52話
side 火炉
一つ分かることは。
「和子、来い。」
「っっ、嫌です。」
この贄が俺にとって、これまで飼っていたどの贄よりも美味で、最高の存在だということだ。
再び背を向ける和子は、あの贄に嫉妬した。それが先ほど一瞬だけ見せた愛情のせいなのだとしたら。
「和子。」
「きゃっ。」
今腕の中に引き寄せたこの女を大事にすればするほど、こいつの味はより甘美になり、最高なものへと変化していくだろう。
「妖術を使うなんて、卑怯ですよ!」
何を怒っているのか、俺から離れようと必死なこの贄は、不幸なことに鬼である俺を好いているらしい。
どこにそんな要素があったのか理解できないが、恐らくこいつらしい理由に違いない。
「和子。悪かった。」
優し気に囁けば、和子の体から力が抜ける。それだけで甘い香りが漂い、喉が鳴るほどの食欲を覚えた。
「もう、他の人間は食わん。」
「……別に、そこまでしなくても……なんでもありません。」
和子が時折出す同じ人間への感情は冷たく、淀んでいる。時に贄の中には家族のために食われる者も多くない。家族を想い、村を想う。
綺麗な感情は反吐が出るほど不味く、気分を悪くさせるものだ。
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