第49話

「ふむ。」



寝床の裏で膝を抱いている和子は、恐らく俺に見つかっていないとは思ってはいまい。



近付けば、ずるずると動き、死角に入ろうとする。そうしていることが確信を深めた。



「どうした?」



俺の好物は、【恐怖】であるはず。それなのに和子の発するあらゆる感情は、とても甘美な匂いを漂わせている。



堪らない。先ほど中途半端とはいえ食事をしたというのに、まだ腹が減っているようだ。


この枯渇は、和子を贄とした時から感じているもの。それでもなぜか、和子を"食う"気がしなかった。




「嫉妬したんだろう?」


「っっ、」



呟けば、和子の体が跳ねる。目に見えるように分かる。和子のあらゆる感情は、香りとなり、俺を誘惑し続ける。



今は、ほんの少しの恐怖と、途惑い。



どれも美味そうだ。



「お前に時が来るまで、俺に人間を食うなと言うのか?」



わざと冷たく言ってやれば、和子はなぜか怯えることなく【怒り】を纏う。本当に不思議な女だ。飼い主に媚びるわけでもないというのに、俺に依存している。



和子が振り返る。涙の溜まったその目は赤く、殺気さえ漂うそれは、俺の中の昂りを煽った。



不思議だな。喉が渇く。



「貴方は、酷い鬼です。」



そう呟いた和子は、生意気にも俺の差し出した手を取ろうとしない。

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