第39話

火炉が部屋に入ると、私をベッドに投げ出す。自分は椅子にドサリと座り、侍女が待っていたように火炉に服を着せてだした。




「和子様。」


「あ、はい。」



私にも、影から現れた2人目の侍女が服を差し出す。受け取ろうとしたそれはベッドの上に置かれ、腕を通せとばかりに広げられた。



着替えくらい、自分でできるのだけど。湯浴みと同じく、それをやらせてくれる気配はない。



「カシラ、よろしいですか?」



火炉の世話をしている侍女が伺いをたてる。視線をやれば、困っている様子の侍女が、火炉に直垂ひたたれを差し出している。



そこでようやく気が付いた。また、火炉が私を見ていたことに。



「あの、カシラ?」



侍女がもう一度呼んでも、火炉は不機嫌そうに私を見つめているだけ。


火炉が怖いのか、私の世話をしてくれていた侍女が体を震わせだしてしまった。




幸い、私は簡素な浴衣。すぐに着替えを終えることができた。



「あの、ありがとうございます。」


「え、あ、は、はい。」



私がお礼を言うと、侍女はそそくさと暗闇に消えていく。まだこちらを黙って見ている火炉が無視をしているおかげで、もう1人は帰ろうにも帰れないようだった。




「あの、」



ベッドから降りて、侍女の元へ近付けば、震えるその子が、意外と若いのではないかということに気付いた。

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