第38話

「これも、もう古くなってしまったな。」



私と首輪を交互に見て、火炉は不満げにそう言った。



「十分、綺麗ですけど。」



首輪は、まるで新品のように綺麗で、傷んでいるところもなければ着け心地が悪いわけでもない。



「いや、もう少し良いものを作ろう。」



そう言った火炉が立ち上がる。


「っっ、」



まったく意識していなかった。今私と火炉は湯浴みをしていた。もちろんお互い裸で、立ち上がった火炉の裸が当たり前に私の視界に入り込む。



「ふ、案外初心なのだな。」


「当たり前です!」




慌てて目を覆っても、見てしまったものは取り消せない。


ああ、どうしよう。最悪だわ。




「人間は変なところにこだわるのだな。裸体などで欲情などせん。」



馬鹿にしたようにそう言い放った火炉が、私の腕を取って引き寄せた。強い力に引かれ、私の体はふわりと浮かび上がる。



抱きとめた火炉は、体を拭くための布を纏っていて、私を抱いたままそれで私の体を包んでくれた。



ペタペタペタ、



裸足で歩く火炉の足音が、静かな廊下に響く。



「服。」


「は。」



火炉が何かを言えば、暗闇から鬼が出現する。今現れたのは、侍女。火炉の部屋付きのお世話係だった。

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