第30話

「あの子が火炉の愛に答えた時、どれほど美味しくなるのだろう。」


「っっ、」



体中の鳥肌が立つ感覚。笑う雷知の目はあの贄を狙い食欲を宿している。


そう、カシラの贄に食欲を感じているのだ。




「殺されるぞ。」


「ふふ、食べないよ。僕は。」



そう言った雷知を信用できるはずもなく、ただ疑いの目を向けることしかできない。



もし雷知があの贄を食ってしまった時、カシラの怒りのほどは想像もつかない。



しかしこれだけは言える。あの方の怒りは全てを焼き尽くす。贄も動物も、人間もそして鬼も、それらの消し炭たちの中心に、あの方ただ1人が立っている。



地獄絵図をたやすく想像できてしまうほど、あの方の妖力は大きく、弱き我々はただ殺されるしか手はないのだ。



「やってみろ。その時は俺が阻止してやる。」


「あれ、珍しいね。桜土が家畜を守ろうとするなんて?」




クスリと笑う雷知の首元を強く握った。それでも雷知の余裕の表情は崩れることはなく、俺を挑発するように笑みは深まるばかりだ。



「あの方が首輪を着けたのだ。俺には守る義務がある。」


「へぇ。」



挑発的な声に、更に力がこもる。

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