第29話

しかし、それでもカシラは、首輪を使ったことはいまだかつてなかった。



カシラ専用の飼育小屋に放り込み、侍女たちが育てた女を抱きながら食らう。特に食に興味のないカシラがいつもしていた食事法だ。



我々は別に、人間しか食べられないわけじゃない。人間と同じ物も食べることができるし、その辺の動物を食らうこともできる。



ただ人間が、最も美味であるというだけだ。



それでもこれまで、こんなにもあの方が人間などに執着しているのを、俺は見たことがなかった。




「そんなに怒ると、ストレスたまるよ?」


「これが怒らずにいられようか。」



振り返り、暗闇を見つめた。現れたのは雷知。唯一カシラを名前で呼び、そのご寵愛を賜っている奴だ。



「それにしても意外だねぇ。【愛】は僕の好む味だというのに。」


「っっ、あれは愛なんかじゃ、」



俺の言葉を手で制して、雷知がニタリと笑う。



「確実にそうだよ。僕が言うのだから間違いない。」


「……。」



雷知の好むのは、【愛情】。鬼の中でも悪趣味な奴だ。



子供を守る親、雷知の優しさに絆された女、そして無垢な子供。雷知はそういう、愛情に溢れた人間を食らう。

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