第27話

なのに。



「桜土。」


「は。」


「二度と和子を穢さぬよう、下の引き締めを徹底しろ。」


「かしこまりました。」




私は誰よりも、火炉に大切にされていた。



たとえその目的が、食らうためだとしても……。



「和子。」


「はい。」


「もう一度、湯浴みをするぞ。」



この真っ赤な瞳が自分をまっすぐ見つめ、執着してくれていることを、



「…はい、火炉。」


「っっ、」


どうしようもなく、嬉しく思ってしまう。



見開かれた目。私を抱く火炉の顔はとても近いというのに、赤い目ははっきりと、姿を映さない。



だから、気づかなかった。



「お前、その目の色は、」


「っっ、」




私の真実の姿が、映し出されていることに。



「離してっ、」



人に忌み嫌われたこの姿は、誰にも見せたくない。それなのに、突き飛ばしたはずの火炉の肢体は離れることはなく、緩んだ目元は逆にその距離を近付ける。



「ほぉ、やはりお前は、最高の贄のようだ。」


「……火炉?」



愉快そうに歪んだ口元はゆっくりと近付いて行き、私の唇に触れる。



目を見開く私を見つめたままの赤い瞳は、先程の侍女と同じく、食欲を孕んだ。

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