第22話

「来い。」


「っっ、」



強引に引き寄せられた。少しの痛みを伴ったそれを、鼻を掠めた香りが鈍らせる。



花の、香り?



鬼に似つかわしくないその香りは、なんだか懐かしい。



暖かい火炉の体温を感じながら、ざわつく心に戸惑う。



火炉は、私を抱いたまま眠りに落ちてしまった。スースーと聞こえる寝息。微動だにしない瞼は、火炉が完全に眠っていることを証明している。



「眠かった、の?」



もちろん、聞いても返事をする人はいない。


「火炉。」



名前を呼んだ。それでも反応はなかった。



「は、あ、」



やっとゆっくり、息ができるような、そんな感覚。噂の鬼はやはりとても恐ろしく、そして美しい。



そっと、火炉の頬を撫でてみた。きめ細やかな肌は、人間の女の人よりもずっと繊細ですべすべしている。



ふと、火炉の頬を撫でる自分の手が小刻みに震えているのに気付いた。



思わず頬が緩む。火炉は勘違いしている。



私は死を望んでいるはずなのに、本当はこうして死ぬのが怖いと悲鳴を挙げている。




「早く、食べて、」



瞼が自然と下がる。本当は、私はこの出会いを望んでいたのかもしれない。

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