第17話

なんとか俺から逃げようとしているのか、着物の裾を直しながら体を引きずる。その度に、ところどころに見える擦り傷にかさぶたが張っているのが見えた。




雷知の癒しの力は完璧なものではない。その主の生命力を高めることで、傷の治りを早くするだけに過ぎない。



だからか、傷はきちんと膜を張り、そしてかさぶたになる。それが離れ、時間が経ってようやく傷は跡形もなくなる。



一瞬で傷が治るような、そんなバカげた物語のような力ではなかった。


ゴクリと、喉が鳴る。



あのかさぶたをはがし血を出してしまえば、極上の血を堪能できるのに、と。



我々の本能。人を食らうことは自然なことで、なんら恥じることではない。



贄は、飼い主に食らわれるための家畜。そのために甘やかし、育て、極上の肉になった時恐怖心を与えて食らうのだ。




「お前のナカに触れたのはどの人間だ?」


「っっ、」



だからこそ、許せない。純潔であるかどうかを確認したのだろうが、俺の贄の最も深いところに触れた。



それだけでその人間はもはや、死に価する。



俺が怖いのか、和子が歯を鳴らしてこちらを見ている。当たり前の反応だ。人は鬼を怖がるものだからな。

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