第18話

「あいつらっ、ん、覚え、て、な、」




しかし不思議にも、この娘は違うようだ。



怯えているのはその人間たちにで、目の前の俺を見て怖がっているわけではないらしい。



「お前、俺が怖くないのか?」



気付けばそう聞いていた。目を上げた和子は、ブルブル震えたまま。



「怖い。もちろん。」



そして至極あっさりと、そう言った。



「「……。」」



見つめ合うこと、数秒。



「ふはっ、ふはははは!」



折れたのは、俺。



キョトンとする和子を前に、笑いが止まらない。



「もちろんか。それもそうだ。はははは!」




鬼を前にしているのだ。恐くないわけがない。そしてこいつはいずれ食われる身。ここで怖くないという方が間違っている。



「あの、火炉?」


「ふ、なんだ。」




不思議な女だ。俺の名前をあっさりと呼べるくせに、自分は恐がっていると主張する。



今もこうして、恐る恐る俺の顔色を伺っているくせに、


「私を、食べない、の?」



こうして、矛盾したことを言う。



「食らうさ。お前が美味になったらな。」


「っっ、」



しかし気に食わないのは、俺や人間は恐がるくせに、和子は死を怖がっていないことだ。

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