第15話

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贄用に準備された部屋は、なぜか使う気が起きなかった。



自分の寝床に贄を寝かせ、観察する。



塞がった傷は、かさぶたになっていて、もうすぐ治ることを予感させている。


我々鬼は、人間とは違い妖術が使える。


しかしそれには種類があり、鬼によって使う妖術が異なっていた。


俺は誰も癒せない。



相手を傷つけるだけの妖術しか持たず、人どころか鬼すら癒す術を持たなかった。



贄は、雷知が治した。雷知には癒しの力がある。全ての生き物を癒す特異な力が。



しかしそれは、対象が持っている生命力の手助けをするだけにすぎず、もはや生きる気力のない者は力及ばず、息絶える。



ということは、この贄は少なくとも生きたいと思っているようだ。



「和子。」



贄の名を呼んだ。なぜかその名を呼んだだけで、自分の中の何かに疼きを覚えた。




長い黒髪に、真っ黒な目玉。唇は赤く色好き、人間の中では見目の良い部類に入るだろう。



我々は鬼だが、伝説のように化け物のような見た目はしていない。角に、長い爪、そして肉を食らうために進化した歯以外は、見た目はさほど人間と変わらないだろう。

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