第14話

「捻れば死ぬ。呪詛で呪えば壊れる。人間の男にすら勝てない非力さ。これほど弱い生き物はいない。」




近付いてきた雷知は、贄の額を長い爪先で撫でた。


それだけで、酷く胸がざわついた。



「おっと。別に食うつもりじゃないから!」


「……当たり前だ。」



贄は、食料だ。しかし贄には飼い主が存在する。主人は、贄を愛する。食らうまで、爪の先まで。



俺たち鬼の一族が唯一人間を大切にするその時は、それを食らう時。



だからこそ、飼い主の輪が付いた贄は、他の鬼が食すのを禁じられ、契約にも似たその関係は、飼い主にも大きく影響する。



捕食者としての独占欲は時に同族よりも優先される。



この女は俺の贄だ。それを他の鬼が食らうのなら、俺はその鬼を殺さねばならない。



「お前なら殺しても差し障りはないがな。」


「ふふ、酷いお言葉を。」



軽口として出した本音も軽くあしらう雷知は、鬼にしては美しく笑う。




「カシラ、お気をつけください。」



不意に伏せられた真っ赤な瞳が、俺を挑発するように緩んだ。



「人間は全て、女の腹から生まれるのですよ。我々と違ってね。」



ウインクをしてみせる雷知は、女を見てペロリと唇を舐めた。

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