第12話

「本当に、よろしいのですか?」



せっかく上がった気分を、桜土が乱す。血の匂いに酔いしれている時だというのに、酷く不快だ。



しかし桜土の赤い目は、女をまっすぐに見つめる。汚らわしいとばかりに、酷く気分が悪そうに。



「お前、いつの間にそんなに偉くなった?」


「っっ、」



思わず笑みが漏れた。息を呑む桜土の瞳が動揺に揺れる。



「贄を選ぶのに、お前の意見がいるとは知らなかったぞ。」


「っっ、申し訳っ、う、」



本当に愉快だ。だからこそ今俺は笑い、桜土の頬は地に押し付けられているのだ。



本当に、愉快でたまらない。俺に意見し、俺が自ら選んだ贄に注文を付けるとは。



足で踏みつけた桜土の一本角がメキリと音をたてた。立派な角だ。俺の側近へと上り詰めたこいつの知識と妖力がつまっている。



「か、カシラ、お許しをっ。」



悶え苦しむ桜土の脂汗は酷く不快だ。それでも俺の機嫌が良いのは、なぜだろうか?



鬼の角はその美しさ、大きさでは決まらない。そこに感じる妖力がものを言う。



だから、桜土の角が折れたとしてもなんの支障もない。隣の羽水のように、角が折れていたとしても優秀であればよいのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る