第57話
「あのね。」
「うん。」
騒がしい駅前。道行く人たちは俺たちのことなんて見もしない。たまに、うちの学校の生徒たちが河合ゆずに気づいてチラリと俺を見ていく。それだけで自分が一体どんな奴と一緒にいるのか気づかされる。
「私、嬉しい。」
「へ?」
なのに河合は変わらず俺をまっすぐに見ていて、そのまっすぐさが自分にあるんだろうかと妙な罪悪感を覚えた。
そして何より、今河合が言っている言葉の意味が全然分からない。
頬を赤く染めて、少しうつむいてから見えたその目はなぜか潤んでいる。
「関口くん今、普通に話してるの分かってる?」
「え。」
「だって、まともに話してくれたこと、ないし。」
伺うように上げられた視線に、何も言えないのは、心当たりがあるからだ。
そういえばなんで俺、こんなにペラペラしゃべってるんだろ?河合と話した記憶がほぼないのは、授業とかでさえ話すのが難しかったからだ。
話題もないし、なにより苦手だし、なんて。ただのヘタレだったんだけど。
「ごめん。」
「いやっ、別に嫌なんじゃなくて。」
うつむいた河合は、そっと俺の制服の袖を掴んだ。それだけで心臓がはねる。こんなしぐさ、可愛い以外にないだろ。
ほんと、たまらないんだけど。
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