第55話

受け身すぎる自分に呆れながらも、この気まずい雰囲気から抜け出せるならと思った。



「返事、聞かせてもらえたら、嬉しい。」




だけど河合の言葉は、更に緊張をあおるもので。望んでいたものであってもはいはいと軽く言えるようなものじゃない。




「とりあえず、座る?」


「…うん。」




自分が落ち着きたいのもあった。学校の最寄り駅前の噴水。円形に座れるようになっているそこは、待ち合わせ場所にはもってこい。



だけどこういう、大切な話をする場所じゃない。


それでも、結局場所を選んでたら話はなにも進まないから。



俺が座ると、河合はほんの少し間を開けて座った。ぴったり寄られても困るけど、これはこれで少し寂しい。



つまりは、こういうことなんだろうな。



「正直俺、河合のこと気になってた。」



「えっ。」




驚いたように見開かれた目。自分がどれだけモテるか自覚してないんだろうか?




「アイドルみたいな、うん。可愛いなー、くらいだったんだけど。」



「あ、うん。」




あからさまに落胆してみせる河合を困らせている自覚はある。突然アイドルみたいに可愛いと思ってましたとか言われてもどんなリアクションしていいか分かんないよな。



正直、河合ゆずのことはその程度にしか思っていなかった。クラスの可愛い女。付き合えたら最高だろうな、とか自慢できるだろうな、とか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る