第53話

「あのさ。」



「ん?」




俺を見上げる河合ゆずは、夏の日差しが暑いのかやや頬が紅潮している。額に流れた汗になんとなく色気を感じるのも、真面目キャラのわりに首にタオルを巻くなんてちょっとワイルドなことをしてるのも、なぜか今日はどんな河合も可愛く見えてしまう。



「一緒に、帰らねえ?」


「え、いいの?」




こんなきみを、もう待たせるわけにはいかないと思う。だから周りの目は気になるけど、返事を先伸ばしにするわけにはいかないと思った。




小さく頷けば、河合が嬉しそうに笑った。あーもう、勘弁してくれよ。



可愛いじゃん。




「あ、こっち?」


「うん。降りる駅も同じだよ。」


「え?」


「あ!」




しまったとばかりに河合が口を手で押さえた。みるみるうちに顔が真っ赤に変化していって、戸惑う目は面白いほどに泳いでいる。



「ごめん、気持ち悪い?」


「え?」




心配そうに俺を見上げる河合は、ばつが悪そうに顔を歪めている。



「電車で、ずっと見てた、から。」



「あ、そういう、こと。」



「ん。」




でもなぜか、河合は俺から目を離さない。どんな表情だろうと必ずまっすぐに見つめてくるんだ。




河合の赤面がうつったのか、俺も顔が暑い。そりゃそうだろ。知らないうちに電車で見られてたなんて。



俺、変な顔してないだろうな?

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