第35話

「ひっ、すっ、すいやせんっ、どうかご勘弁を!」



顔を床にこすりつけて必死で謝るのはいいけどさ。鼻水とか、涙とか、うわー、キモイ。



どうやら彼は、奏の”お返し”という言葉を、それはもう恐ろしい意味だと取ってしまっているらしい。


いや、ある意味そうなんだけどさ。



「どうやら、謝る気はあるみたいですね。それはよかった。」


「たっ、田島さんっ、この通りです!」



俺の足元に縋りつくのはいいけどさ、俺、おやじに縋りつかれて嬉しがる趣味なんて持ち合わせてないんだけど。


できればセクシーな女にお願いしたいね。



「しかしですね、今回貴方の失態は、他の組も巻き込んでいるわけです。損害は微々たるものですが、うちの若がそれをよしとしないのは、理解していますよね?」


「っっ、ううっ、」



涙目で見上げてくるキモイおやじ。うーん。これも俺、美女がいいんですけど。


赤黒い顔色は、俺の発言を聞くにつれ、どんどんそれを青くさせていく。ほんといや。この程度の案件でなんで俺たち直々に出張らなくちゃいけないわけ?



「……俺でいいだろ。」


「若、ホワイトデーですぜ。人間を差し出すのはいかがなものかと。」



ホワイトデーのお返しで上の空だった奏が軽く受けちゃったせいだと思うんだけどな。


それを責めると殺されそうだからなにも言わないけど。

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