第33話

「……、ふ、」



熱い舌先で一粒のチョコは、少しずつ溶けていく。


柔らかなそれは、ゆっくりと、確実に。



奏がゴクリと喉を鳴らして、私の舌を吸い上げれば、苦みを漸く感じた。


甘さだけを感じていたそれは、ビターな切なさに変わり、胸の苦しみが増す。



ゆっくりと、奏が私の唇に自分のそれを這わせ、噛みつかれた下唇はリップ音と共に解放される。



離れた寂しさに顔が歪んだ私を、奏は嬉しそうに抱きしめた。




「っっ、」



広がるのは、心に。



温かい。愛おしい。


甘く切ないそれは、私がこれまで体験してきた闇とは違う。



切なく、苦しいけれどそれは……



「美味い。」



愛という言葉に、必要不可欠なもの。



”いつも”の距離。その中で見上げた奏は、子供のように無邪気に笑ってる。



「分け合うのも、一緒に食うのも、どちらもありだな。」


「うん。」



家族だから、大好きな人だから。一粒のチョコでこんなにも、温かな気持ちになれる。



「甘い物は好きじゃねえが、お前の全身チョコまみれなら食える気がするな。」


「……。」



こんな変態でも、私の大切な恋人。



「今度やってみるか。」


「それは、嫌だな。」



いや、大切な、旦那様。



「なんでだよ。」


「……ベッドが汚れるし。」



生まれや境遇なんて関係ないのかもしれない。



「その食うじゃねえし。」


「余計嫌だよ。」



この人なら、どんな私も愛してくれる。



「じゃあ、残り全部、2人で溶かすか?」


「……1日1個で。」



新城奏なら、絶対に。





……end,

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