第31話
貰ってばかりなのは私。奏にとっては少額でしかないあのお金しか持たない、醜い恰好をした傷だらけの私に、全てを与えてくれたのは奏だから。
なのに奏は私から、貰ってばかりだと言う。
「そんなわけない。」
吐き出されたのは、嘲笑。奏を笑ったんじゃない。私自身を笑ったんだ。
何も持たない、私。いや、持っていたのは人の憎悪や、嫌悪するような忌々しい因縁ばかり。そんな私を腕に包んで、温もりと家族をくれたこの人。
そんな奏に私は、何を返せたんだろう?
チョコくらい、あげなくちゃ。私みたいな人間が、奏に返せるのは、他にないのだから。
「お前こそ、そんな訳ないぞ。」
なのに、私に返って来た言葉は、ムッとしたもので。
「お前が俺に、全てを与えた。」
継ぐ言葉は、信じられないもの。
「お前という人間。それが今の俺にとって全てだ。」
そして最後に吐かれた言葉はとても甘く、胸を苦しくさせた。
ギュっと、心臓が掴まれたような感覚。奏が今、私の手から取った箱に入ったこのチョコレートのように。
苦く、甘く、切ない。
私の目尻に、涙が溜まって。それを零さまいと、なぜか笑ってみせた。顔の動きで、涙がせき止められますようにと。
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