第29話

「寒気がするけど、頑張る。」



新城さんに殺されはしまいかと戦々恐々だけど、私、頑張る。




「まっことぉ。お兄ちゃんが帰りましたよ!」


「……。」



”かきいれ時”のこの日にわざとらしく帰ってきた隼兄は無視で、頑張る。



「どうしたの。今日とかキャバクラで忙しいんじゃないの?」


「んん?んふふふふ。」



嫌な笑みがキモイから、とりあえず目の前のケーキを食べることにしようと思う。



キャバクラでは、バレンタインデー企画で目白押しなはず。管理者である隼兄が家に帰れるわけがない。



「はい。」


「え?」



目の前に差し出されたのは、チョコレート。それも、最高級品。



「バレンタインデーは、好きな人にチョコを渡す日でしょ。だからはい。お兄ちゃんから大好きな妹へ。」


「キモ。」


「ええ~。」



残念そうな隼兄の声とは対称的に。なんだよこいつ。たまにはいいことするじゃん。



……なんか、きた。



「っっ、しょうがない、貰ってあげる。」


「えっ、てことは両思い?」


「くたばれ。」


「うわそれ、奏の最近の口癖。似ちゃ駄目よ。」


「消し飛べ。」




結局、この人が私の傍にいる。だから。私は少しずつ、心を解放すればいい。



甘い物に囲まれてとりあえず、幸せだし。


それがちょっと女としては悲劇だとも言えなくもないけど。



まぁアリだ、アリ。

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