第24話

「いいいいいい、いねぇし!」



動揺半端ない私を見て、ゆいかが「やった!」とばかりに口角を上げる。



「だーれかな?」


「ちちちちがうし!」



ゆっくりと立ち上がったゆいかの顔から、赤が引いていく。体をゆらゆらさせながら迫るその光景はまさに、恐ろしい幽霊のようで。



苦手なホラー映画を思い出して息を呑む。



「西の方に、いらっしゃいますよねぇ?」


「違う!」


「っっ、」



思わず、叫んでしまっていた。ゆいかの体が跳ねて、しまったと思ってももう遅い。



教室中の視線よりも今、ゆいかのこの小さな体が震えている。



それがとても嫌だった。



他でもない、ゆいかが、西というワードを軽々と言えることを喜ぶべきなのに。


私が今、認めようとしていないこの感情を見透かされていることに、ただ恥ずかしくなってしまった。



「ごめんっ。」



ゆいかが、顔をクシャリと歪める。これまで不幸なことばかりだったゆいかは、苦しみを知っているからこそ、人を傷つけることを嫌う。



「違う。ゆいか。ほんとに。」



申し訳なくて、顔を合わせられなくて。目を手で覆った。



「ううん。私が悪い。」



ゆいかの沈んだ声に、どうにかこの場を明るくできないものかと考えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る