第6話

奏が普通のサラリーマンだったら。一般の人だったら。



こういう風に、デートをするだろうか?



手を繋いだ木々が、並木道の青を洞窟のように見せる。



蒼い洞窟は奥へと人を導き、恋人達は笑顔で誘われるまま、歩を進める。



私達が普通だったら。こうして同じ、毎日を送るのかな?



そう思って私は、小さく首を横に振った。



「どうした?」



私の変化にいち早く気付くこの人はきっと、新城奏だから私を見つけてくれた。



「ううん。」



私の返答に眉をぴくりと反応させたこの人が新城奏で、私が新見ゆいかだったから。



「そんなわけねえだろ。吐け。」



だからこの人は、この幻想的な風景よりも、私だけを見ている。



奏のたばこの煙が届いたのか、近くにいた女の人が迷惑そうに振り向いた。



厳つそうな彼氏も同時に振り返って睨みを利かせる。


確かに。こんな公共の場でたばこを吸ってる非常識な人なんて、きっと奏くらいだと思う。



だけど、その2人は奏を見ると、これでもかというほど目を見開いた。




そして女性は頬を染めて目を潤ませ、男は恐怖だけを顔に映す。



そして。



「たばこ、消したら?」



私がこうして、嫉妬してしまう。

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