第7話

「……ああ、わりい。」



そう言って懐から出した携帯灰皿にそれをしまう奏を見ていて、少しカチンとした。



何故かというと、奏のやってることが普通すぎるからなのかもしれない。



奏はいつも、仕事用の携帯すら自分で持たない人。そんな人が一般人に化けるため、こんなことまでしてる。



私の為に。



ああ、やっぱり。



「吸ったら?」


「ふっ、なんでだよ?お前が吸うなって言っただろ?」



口角を上げて結局2本目に火を点けているこの人は、普通じゃだめだ。




新城奏は、普通じゃなくて。



真っ黒な正装に包まれ、この人が通れば人々は足を止める。口は話す事を禁じられて、奏の整った容姿は視線を釘付けにする。



まるで、このイルミネーションのよう。




奏は年中無休で特別で。私を特別に、愛してくれる。




「似合ってるね、コスプレ。」


「……これってコスプレに入るのか?」




奏と指を絡めて歩いていれば、たばこの薫りが存在を”まき散らす”



次々に振り返る人たちは、迷惑顔を固まらせて。



イルミネーションよりも奏に夢中になる。




だけどね。



「ねぇ、そこに立ってくれないかな?」


「あ?」



イルミネーションと奏が、合体したら。

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