第55話

side 密人



「助けてもらわなくても、よかったんじゃねえのか?」



俺の口から吐き出されるのは、軽蔑の言葉ばかりで。



「・・・首に、手、回してたしな。」



あの時、こいつの”顔”が歪んでいるのは分かっていたのに。



「もしかして、同意だったか?」


だったら悪かったな。

俺がそう吐き捨てた所で、彼女は困った様に微笑んだ。



そんな彼女の表情に”余裕”が見えて、俺の心が軋む。




「なんなら呼んでくるぞ?場所が場所だし。つってもあいつ、使い物になんねえだろうけど。」



あの男の”ソレ”は先ほど、まっさきに踏み潰していたから。



立ち上がった俺をただ無言で見つめる杉原茉里に、イラつきが押し寄せた。



衝動のまま、彼女の元へと歩を進め、


「満足してねえなら、俺が相手してやろうか?」


嘲笑を顔に張り付けた俺は目を見開いた彼女を抱きあげ、ベッドへと投げた。



「ッッ、」



突然の出来事に驚いた彼女だけど、すぐにその顔に諦めの表情を映す。



その顔は”知っていた”



先程、彼女が谷中に襲われていた時に見ていたから。



頭が真っ白になった。



顔を歪めた俺は、無意識にベッドで仰向けに寝る彼女の上に覆いかぶさっていた。



強ばる彼女の身体に気付いていたが、目の前で震える”小さな女”が切なくて仕方が無かったんだ。




「・・・・慣れてんなよ。」




思わず彼女に落とした言葉。


見えた【闇】の深さは、底なしだった。

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