第56話

泣きもせず、笑いもせず、ただ苦しそうに俺を見上げているだけの杉原茉里を見て思う。



男にあんな行為を強要されたにも関わらず、こいつのツラに浮かんでいるのは、【諦め】でも、【恐怖】でもない。


強いて言うなら、【義務感】



男の望むまま、しなければいけない。



そんな行動が伺えた。



「お前の心は、どこにあるんだ?」


「え?」



こうしている内も、俺に抱かれようとしている彼女の、闇色に染まった瞳を見て呟いた。



何故かそう、質問していた。



「こういう行為は、気持ちが伴ってこそ、気持ちのいいもんだと思う。」



つい続いて出た言葉に、杉原茉里は一瞬固まり…



「フフフッ、」



何故か笑いだした。



「何が可笑しい。」


低い声を吐き出した俺に、彼女はもう一度、クスリと笑った。



「だって、愛情が無くてもしようとしてた人がそんなこと言うから。」



「・・・・。」



彼女を組み敷いている自分の、説得力の無さを痛感した瞬間だった。



「悪い。……だな。」


「ふふ、」



未だに笑う彼女の上から身体をずらし、隣に座った。



動揺のせいか、禁煙という事も忘れて煙草に火を点ける。




フーー…、



ベッドヘッドに凭れて紫煙を上げる俺を寝たまま見上げていた杉原茉里は、徐に口を開いた。

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