第50話

いきなり連れてこられたラブホテル。


この場所で行為の続きをされると思っていた私は、写真を睨んでいる田島さんを見て首を傾げた。



「どうしたんですか?」


「・・・。」



私の質問に何も答えない彼は、私の着ている背広へと手を伸ばす。


そしてポケットから携帯を取りだし、どこかへと電話をかけだした。



「・・・ラブホの入り方を教えろ。」



電話の相手が出た途端、仰天の発言をした彼に、私の目が見開かれる。



「ん。・・・ああ?・・・写真がある。ん。・・・これか。」


電話の相手からの質問に答えながら、彼の手はぎこちなく操作盤の上を滑る。



「さんきゅ、康祐。」



電話の相手にお礼を言った彼は、どうやら部屋を取る事に成功したようで。


「・・・はぁ。」



若干疲れた顔をしたあと、私の手を引いて歩き出した。



「ふふふ、」


「・・・何が可笑しい?」



部屋へと足を踏み入れた私は思わず笑い声が漏れてしまって。


そんな私に田島さんは眉間に皺を寄せて抗議の声を上げる。



「入ったこと、ないんですか?」


「・・・お前はあるのかよ?」


「いえ、私も初めてです。」



そう答えた私に、目の前の彼は何故かホッとした表情を浮かべていて。


それに首を傾げた私に、田島さんは小さく溜息を漏らして口を開いた。




「風呂。入って来い。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る