第49話

side 茉里



「・・・・。」


「あの、」



中学の頃、恋愛小説を読んでいた友達が溜息をつきながら「ナイ。」そう言っていたいわゆる俵担ぎ。


それをまさに現在されている私は、抵抗虚しくいかがわしい外観のホテルに足を踏み入れる田島さんの揺れる背中を見ていることしかできなかった。



そして今、


キョロキョロと辺りを見回した彼は、部屋の様子が映し出された写真の並びの前で無言のまま立ち尽くしていて。



「あの、」


「・・・なんだ。」



もう一度呼びかけると漸く返って来た返答。


担がれているせいでジンジンと痛み出したお腹に、私の身体が少し捩れた。



「あの、下ろして、くれませんか?」


「ん?……ああ。」



彼が今気が付いたかのように腕に力を込め、私のお腹が圧迫感から解放される。



静かに、ゆっくりと下ろされた私の足は、冷たいリノリウムの感触を感じ、少しだけ身震いした。



ほぼ裸の私は田島さんの背広ですっぽりと包まれていて、鼻腔を刺激した煙草とスパイシーな香りに目を細める。



そんな私を目を細めて見下ろした彼は、少しの隙間すら無くすかのように、背広の前をしっかりと引き寄せてくれた。



そして再び彼の目は鋭く尖り、睨みつけるように写真の並びを見つめている。

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