第48話

「武。」


「は。」



事務所に戻った俺の呼びかけに素早く反応した武に、視線だけをやった。



「あの男、葬れ。」


「は。」



頭を下げた武が再び裏口へ姿を消すのを確認し、未だに志保の腕に包まれている彼女の前にしゃがみ込んだ。



「大丈夫か?」


「はい。」



暴行されそうになったというのに、彼女が冷静なことに、違和感を持った。



彼女は無言で志保の手を押すと、何事も無かった様に立ち上がる。



四散している彼女の服を自分で拾い集めているのに目を剥いていると、その度に俺のスーツの裾から彼女の白い肌が晒された。



目のやり場に困った俺は床に視線を落とし、そんな自分に内心苦笑が漏れる。



「・・・茉里、ちゃん?」


「なんですか?」



呆然とする志保に普通に返した彼女へと視線を移すと、闇色の目が、彼女を射抜いていた。


ただ黙ってそれを見ている俺と、苦痛に顔を歪めている志保。


そんな俺たちに杉原茉里は溜息を漏らした。



「大丈夫です。”慣れてますから”」



その言葉に、俺の頭が沸き立った。



杉原茉里の腕を、強く掴む。



「イッ!?」


「・・・こいつ借りる。」


「え?」



怒りで加減を失った俺に顔を歪めた茉里を、肩に担いだ。



呆然と床に座ったままの志保を置いて、店を出る。




事務所の自分家は女の出入りは禁止で。


本家に行くわけにもいかない。




ほぼ裸のこいつをバイクに乗せるわけにもいかず、



考え付いたのは、近くのラブホだった。

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