第47話

籍は、親父。


だけど母さんが愛し、俺という子を生したのは、あの男。


そんな母さんごと、大切に愛していたのは、親父。


そんな親父と母さんに耐えきれなかったのは、あの男。



――――おれは、あの男の、仔。



自分の父親だと、俺が親父の事を慕ったって、あの男の血が流れている事実は、否めない。



能力的にも親父に到底敵わなくて。


毎日勉強に明け暮れてる。


それでも縮まらない差。



下手をうつ度に、”七光り”だと言われた。



七光り?なれるならなりてえよ。





あんなクソ野郎の所に生まれるくらいなら、


田島隼人の息子として、生まれたかった。




そう叫びたい。


だからこそ、人の倍、努力したんだ。



そんな半人前の俺が、杉原茉里を、”背負える”のか?



武から上がって来た彼女の境遇を知って、”重荷”に思ったのは事実。



そんな気持ちで俺は、彼女に近付いてもいいのか?



彼女を、守り切れるのか?



葛藤していた頃、武からの報告。




今までの葛藤・戸惑い・躊躇い、




全てが、吹き飛んだ。




気が付けば、若に了承を貰い、バイクを飛ばしていて。


店の前で会った志保と店内へ足を踏み入れた。




見つけた彼女は、腕は男の首に巻きついているのに、


浮かんでいる表情だけが、苦痛に喘いでいた。




助けて




唇はそれだけを音も無く刻んでいて。


そんな彼女に志保は謝罪を繰り返す。



彼女に上着をかけさせた俺は、



荒ぶる気持ちを、目の前のくだらねえ男へとぶつけた。

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