第46話

side 密人




人を好きになるということは、



俺にとってはとても、重要なことだった。



友人や、仲間、親でさえ、俺を”深く”知る者なんているんだろうか?



寝る度に何度も繰り返される。



ーーー母さんの、朱。



朱色に染まった母さんは、俺に向かってにっこりと微笑むんだ。



『”愛”から解放されて、嬉しい。』と。


幼き俺は、ニッコリと笑う。


『良かったね、お母さん。』と。



繰り返される夢は、いつもそこで終わる。





母を、発見した時。



ベッドの上の母さんは、まだ生きていた。


ぱっくりと切られた首からは、ゴポゴポと、奇妙な音と共に真っ赤な血が止めどなく溢れ出て、


母さんはそのせいで、息をしようと喘ぐ。



だけど声も出ず、苦しい吐息も出ない。


死にに行っている人間を生かそうとする身体。


余りにも矛盾に満ちた光景に、あの時の俺はただ静観していることしかできなかった。



天井をただ見上げていた母さんは、俺の存在に気付いて視線を滑らせる。



目が合った途端、


そこから色が消えていく様に、母さんの瞳から”生”が抜け落ちた。




俺は彼女を、こんな目に合わせないか?



杉原茉里という存在を認識した途端、恐くなった。



彼女は、確かに俺が長年探していた女かもしれない。



だが、



俺の【父親】は、愛しぬけなかったんだ。



親父には、言えなかった。


『アンタの子供に生まれたかった。』なんて。

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